肝臓の血管内皮細胞を標的とした治療システムの創製

グループ担当教員名:佐藤 悠介 助教
(薬剤分子設計学研究室と兼務)

肝臓の血管内皮細胞を標的とした治療システムの創製

 肝臓は脂質代謝や糖新生、解毒などの生命活動を維持する上で不可欠な多彩な機能を司る重要な臓器の一つです。そのため、ウイルス感染や薬剤の過剰投与などの様々な要因によって引き起こされる肝炎は時に深刻な症状を招き、また症状が進行すると難治性の肝硬変や肝がんまで発展する場合があります。肝臓血管は上記に挙げたウイルス感染やある種の薬剤による肝障害、さらには異物の排除、免疫制御やがんの転移など多岐にわたる病態に密接に関与していることが明らかになってきています。肝臓血管選択的な遺伝子発現を制御できる技術は、肝臓血管の様々な病態における機能の解析、さらには関連する疾患を治療する画期的な手法になり得ます。Short interfering RNA (siRNA) は塩基配列特異的に標的mRNAを切断することで、特定の遺伝子がコードするたんぱく質の発現を抑制することが可能な機能性核酸です。我々はsiRNAを搭載した脂質ナノ粒子により肝臓血管選択的に特定の遺伝子発現を抑制可能なシステムの開発を進めています。

 これまでに、脂質ナノ粒子の肝臓血管への移行には脂質ナノ粒子表面の弱い正電荷が重要な役割を果たしていることを明らかにしています。また、血中に存在するアポリポタンパク質の一種であるApoEが脂質ナノ粒子と相互作用し、肝臓血管に対する内因性リガンドとして働いていることを明らかにしています。脂質ナノ粒子の電荷を厳密に制御することで脂質ナノ粒子が移行しやすい肝実質細胞への移行を大幅に抑制し、肝臓血管へ選択的に移行し、遺伝子抑制を誘起することが可能な技術を開発することに成功しています。CD31という血管内皮細胞マーカーを標的遺伝子とした場合、その発現をsiRNA投与量として0.1 mg/kgで50%抑制することが示されています。また、他の臓器における血管に対しては作用せず、肝臓特異的に標的化できていることも確認されています。このように、肝臓血管特異的にsiRNAを効率的に送達可能な技術は我々以外に報告例はありません。現在は疾患モデルにおける治療効果を検証していると主に、実用化に向けた諸検討を推進しています。