平成21年4月に発足した「血管を標的とする革新的医薬品分子送達法の基盤技術の確立」は平成26年3月に成功裏に終了しました。
がんの血管を標的とする医薬分子送達システムの開発が本プロジェクトを先導し、抗がん剤、あるいは機能性核酸を搭載した医薬分子送達システム(MEND: Multi- functional Envelope-type Nano Device)の開発に成功し、がんの血管を攻略することで抗がん剤に耐性となったがんにおいても有効なシステムの開発に成功した。標的化リガンドとして、探索に成功したアプタマーリガンドの開発により、オリジナルなシステムが完成しました。
肝臓を標的とする医薬分子送達システムでは、YSK-MENDの創製に成功し、siRNAなどの機能性核酸を非常に高効率で送達可能となり、ヒトキメラマウスを用いたC型感染モデルマウスにおいて顕著な治療効果を得ることに成功しました。YSK-MENDの送達効率は世界最高水準であり、肝炎はもとより種々の治療法へと応用が可能であります。
脂肪組織への医薬分子送達システムの開発においては、脂肪血管に特異的に発現しているプロヒビチンという標的分子を介した能動的標的化システムの開発に成功し、脂肪血管を攻略することで、顕著な抗肥満効果を誘導することに成功しました。さらに、肥満時の脂肪血管は正常時とは異なり、血管構造が緩く、がん組織で見られるEPR−効果が適用できることを世界で初めて発見しました。その結果、肥満時には血管を超えて脂肪細胞へ直接アクセス可能となり、治療戦略が大きく進展しました。
リガンドグループでは、SELEX法によるアプタマーのスクリーニング系を確立し、腫瘍血管と脂肪血管をそれぞれ標的化するアプタマーリガンドの探索に成功しました。さらに、本法をオルガネラターゲティングへと応用し、ミトコンドリアと核をそれぞれ標的化するアプタマーの探索にも成功しました。
5年間の成果として、原著論文66報、特許出願18件(内海外出願7件)、著書10報、総説31報(内英文14報)、招待講演134件を行うことができました。また、これらの研究成果を生み出すと同時に、沢山の若手研究者の育成にも貢献することができました。特任准教授2名、特任助教8名、博士研究員6名、学術研究院6名、学術補助員1名、学位取得者22名、そして多数の大学院生が参画し、共通の目的を持ち切磋琢磨するとともに、協力し合う環境が生まれました。
これらの成果を基に、平成26年4月より新たに発足した「血管を標的とするナノ医療の実用化へ向けた拠点形成」において、未来創剤学研究室では新たな若手教員が参画することにより、血管生物学研究室と密接に連携し、①がん、肝臓、脂肪組織へのアクティブターゲティングシステムのさらなる改良を進め、②革新的治療システムのPOCを確立し、③GLP/GMP基準での製造方法を確立し非臨床試験・臨床試験への橋渡しを実現することを最終目標として研究を進めています。
未来創剤学研究室は、概算要求の戦略的研究推進プロジェクト「血管を標的とする革新的医薬分子送達法の基盤技術の確立」の一貫として平成21年4月より発足しました。歯学研究科の樋田京子博士をリーダーとする血管内皮細胞に特異的に発現するマーカー分子を探索する研究チームと連携し、これまで薬学研究院で開発に成功した多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)に、血管内皮細胞を標的化可能とするリガンドを分子設計し、能動的ターゲティングを実現することを目的として発足しました。
がん組織の血管内皮細胞は、がん治療の標的細胞として注目されています。本研究では、がん組織の血管内皮細胞選択的に認識可能なリガンドを設計し、MENDに組織・細胞レベルでの選択性を与え、抗がん剤、タンパク質、機能性核酸などを送達することで、革新的な医薬分子の送達システムを構築します。さらに、標的組織をがん組織から肝臓、脂肪組織へと拡張し、より高度な薬物送達システムの開発を行います。従来の薬物送達システムでは、血管を超えて標的細胞へ到達させる方法はがん組織や肝臓のジヌソイドなど特殊な血管内皮細胞に限定されていました。本研究では、ナノ粒子にとって大きなバリアーとなっていた正常な血管内皮細胞をトランスサイトーシスなどの機構を活用して超えるシステムを世界で初めて創製し、薬物送達システム(DDS)の領域に革命を起こすことを最終目標としています。
本プロジェクト研究は、平成21年4月にスタートし、5年間で最終目標へ到達することを目指しています。この目標を達成するためには、薬剤学のみならず、英知を結集することが不可欠であります。教員は薬剤学、ゲノム創薬、核酸有機化学など多様な分野から若手教員が参画し、薬剤分子設計学研究室と密接な協力体制のもとにbreakthroughを起こそうと意欲に燃えています。新しいDDSを自らの手で創製したい、という意欲的な大学院生、若手研究者の皆さん、一緒に革命を起こしましょう!