卒業生からのメッセージ

Kさん 平成21年 修士課程修了(現)大日本住友製薬株式会社 化学研究所

[進路選択]
 大学3年もしくは修士1年の段階で就職か進学か選択しなければなりません。就職を選んだとしても公務員、薬剤師、会社員など薬学部出身者の進路は様々です。その中で私は大学院を修了後、博士課程には進学せずに製薬企業に就職することを選びました。製薬企業の職種としては研究職、開発職、MR (営業職)があり、前者2つは大学院修士課程卒以上の学歴が必要となるのが一般的です。もともと大学院教育を重視しているという理由で北大を選んだこともあり、博士課程において専門分野を追及する道にも魅力を感じましたが、創薬研究に早く携わりたかったことから就職を決意しました。
[研究職]
 研究者は新薬候補化合物の創出及び前臨床段階のあらゆる試験を担当します。研究所は、化合物を合成する化学研究所、薬効を評価する薬理研究所、動態を試験する薬物動態研究所及び毒性試験を担当する安全性研究所により構成されています。
[大学⇔企業]
 学生と社会人との差は、端的に言えば時間の使い方に対する意識の差にあると思います。学生時代は実験時間に制約が無かったこともあり、質よりも量でカバーすることが可能でしたが、企業においては実験時間に限りがありますので、単位時間当たりの生産性を上げて実験することが求められます。
 また創薬研究は部署内でのチーム力はもちろんのこと、他部署との連携があってこそ成り立つものです。自分の頭で考え抜きやり遂げる研究者個人の研究力に加えて、ひとりでは何もできないという謙虚な心を持ち、「人と人とのつながり」を大切にする意識は皆高いように思います。
 加えて企業においては広く物事に目を向けることも必要になります。学生時代と異なり、携わるテーマが固定されているわけではありません。「XX (疾患名) の薬を創りたい」という目的は創薬研究を志すきっかけとしては良いとは思いますが、長い会社員生活の上では時に足かせになってしますかもしれません。「新薬を世に送り出す」ことを目的とし、柔軟な対応を心掛けています。
[女性研究者として]
 女性が研究者として仕事を続ける面で製薬企業はとても恵まれた環境にあると思います。研究者の勤務形態はほとんどがフレックス制、もしくは裁量労働制であり業務時間の融通が利き易いですし、産休や育休も存在します。また会社にはひとりひとりが活躍できる機会が分野を超えて幅広く存在しており、自分の可能性を制限しなければ定年まで勤めることも十分可能です。
[研究者の醍醐味]
 研究は主体的に取り組むからこそおもしろいものです。現実問題、実験は予想通りにうまくいくケースの方が少ないですが、もがき苦しみ試行錯誤を繰り返す中で道が拓けたときの喜びは感動的です。そのような感動を追い求めて日々過ごしているといっても過言ではありません。
[メッセージ]
 私は今、自分にとって天職とも言える仕事に就けた幸せに満ち溢れ、日々楽しく生活しています。「10 年後の薬を創っているのだ」という実感と「人の役に立つ」仕事をしていることが誇りです。私見ですが、人生は誰と出会い誰と過ごすかで決まると思っています。朱に交われば赤くなるといいますが、人は大なり小なり周りに影響されるものです。私は大学で努力することが習慣化されている集団の中にいたことが幸運でした。その集団に属する上で恥ずかしくない自分自身でありたいと思い、気を引き締めて生活することができたからです。北大生は基本的に誠実な努力家です。加えて北大のスタッフは研究を心から愛する教育熱心な先生方が多く、一度議論に発展すればお互い一歩も譲らないということもあり得ますが、研究する上でこの上ない環境だと思います。たとえ将来研究職に就かなかったとしても、北海道の広大な自然の中、第一線で活躍を続けるスタッフのもとで、仲間と叱咤激励し合いながらとことん研究に打ち込んだ日々は間違いなく良い思い出になることでしょう。

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