遷移金属触媒を用いた炭素-水素結合の直接的官能基化反応(C-H活性化)
有機化学の授業で習うように、有機化学反応は主にアルケン、アルキン、ハロゲン、カルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基といった官能基上で起こります。したがって逆合成解析においては、結合を作りたいところには足がかりとなる官能基をあらかじめ用意しておく必要があります。一方で有機化合物に無数に存在する炭素-水素(C-H結合)を自在に別の官能基へと変換することができれば、単純な炭化水素などの原料から単工程で効率的に目的とする分子を組み上げられるようになるはずです。このような反応はC-H活性化(C-H activation)やC-H官能基化(C-H functionalization)と呼ばれ、現在世界中の研究者がしのぎを削って研究を進めています。

私たちは主にコバルト(Co)やロジウム(Rh)といった遷移金属触媒を使ったC-H活性化の研究をおこなっています。私たちは世界に先駆けてCp*CoIII触媒がC-H活性化に利用できるということを発見し[ACIE. 2013]、その後この触媒は世界中の研究者が利用するところとなりました。私たちはコバルトとロジウムの違いに着目し、コバルト特有の反応性や選択性にフォーカスした研究を進めています。

また最近ではロジウム触媒やコバルト触媒とキラルな有機分子を組み合わせた不斉C–H活性化/官能基化反応の研究に力を入れています。少量(触媒量)のキラル源から多量のキラル化合物を得ることのできる不斉触媒反応は、医薬品等の複雑な骨格を効率的に作る上で非常に重要な手法です。私たちは金属触媒に直接キラリティを導入することなく、利用しやすいキラルスルホン酸やキラルカルボン酸を用いることで、これらがロジウム触媒やコバルト触媒と協同的に働いて機能することを明らかにしました。この手法の研究はまだまだ発展途上であり、現在も精力的に研究をおこなっています。

最近の主要な研究成果
- Angew. Chem., Int. Ed. 2019, 58, 1153. [Highlighted in Synfacts]
- Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 12048. [Highlighted in Synfacts]
- Nature Catalysis 2018, 1, 585.
- Chem. Eur. J. 2018, 24, 10231.
- Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 7156.
- Org. Lett. 2016, 18, 5732.
- Org. Lett. 2016, 18, 2216.