北海道大学大学院 薬学研究院 創薬科学部門 創薬化学分野
薬化学研究室 Laboratory of Medicinal Chemistry
 

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 1. 抗癌および抗ウイルスヌクレオシドの分子設計と合成

 抗がん剤と呼ばれるものは、いくつかの種類に分類されますが、薬化学研究室では代謝拮抗剤と呼ばれる種類の抗がん剤を中心に研究しています。 我々の研究室ではDMDC、CNDAC、ECyd(エチニルシチジン)の3つの抗がん剤を開発してきました。DMDCとCNDACはDNAの合成阻害剤と して働き、ECydはRNA阻害剤として働きます。DMDCはすでに臨床実験が終了しており、固形がんには活性化が弱かったため、現在は白血球の治療薬と して開発し直しているところです。CNDACは第二相の臨床試験に入っていて、現在イギリスのベンチャー企業が開発を進めています。ECydは日本の製薬 会社がアメリカで現在第一相の臨床試験中です。 このほか、以前に血圧降下薬を臨床試験まで進めた実績があり、我々の研究室はヌクレオシドの医薬品開発で世界的に最も評価されている研究室のひとつだと自負しています。







 では、このような分子設計による創薬は、どのようにして行われるのでしょうか?

 現在、創薬の分野では、目的にあった薬を頭の中で考え、創り出すという手法に変わっています。私たちは分子を設計するとともに、実際にその分子を合成する方法も研究しています。 薬を考えてから実際に薬になるまでにはいくつかの段階を経ることになります。分子の設計、分子の合成、試験管での実験、動物を使った実験、メカニズムの解析、臨床試験という流れになりますが、当然ながらそれぞれの段階でまたいくつかの過程を踏むということになります。


 実際に私たちが設計したCNDACという抗がん剤を例にお話しします。CNDACはRNAの構成成分であるシチジンの誘導体でそのもの自体は、通常は毒でも何でもありません。この物質はがん細胞に入り込むとリン酸化を受け、 三リン酸体になります。これがDNAに組み込まれて、はじめて活性本体になり、DNAの鎖切断を引き起こします。がん細胞は正常細胞に比べて増殖が速く、DNA合成が盛んです。したがって、がん細胞が増殖しようとしてDNA合成を活発にすればするほど鎖切断反応が進み、DNA合成を阻害するというしくみです。
 まず、こういったメカニズムを考え、次に、この分子を合成します。分子が合成できたら、動物を使って、実際に設計したメカニズム通りにその分子が働くかどうかを検証します。CNDACの場合は、白血病のマウスに投与しました。何も処置しないマウスが10日目に全て死亡してしまったのに対して、CNDACを10日間投与したものでは50日過ぎに一匹は死亡してしまいましたが、それ以外は生存する(がんの消失)という驚異的な結果を見ることができました。
 次の段階では、ヌードマウスに人間の胃ガンの細胞を植え付け、CNDACを経口投与しました。結果は非常に明らかながん細胞の縮小を見ることができたのです。
 この段階でメカニズムの検証を行いました。その結果、確かにDNAの鎖切断が行われていることを確認し、当初考えたメカニズム通りの作用が起こっていることが実証できました。このCNDACは現在、第二相の臨床試験に入っています。