オルガネラ制御を基盤とする細胞操作に関する研究-TransMIT

オルガネラ制御を基盤とする細胞操作の実践

ミトコンドリアの質および量は細胞間で異なり、細胞の表現型・機能・個性に大きな影響を与えます。私たちは、ミトコンドリア共生用人工ナノカプセル【Trans MIT】を用いて、宿主細胞へ外来ミトコンドリアを導入し、ミトコンドリアの質・量の制御に基づいた細胞機能の転換に挑戦しています(JST・創発的研究支援事業・一期生)。

特定の遺伝子を細胞核に導入しiPS細胞を樹立する技術は、細胞性質を転換する画期的な発見です。また、米国ではミトコンドリアを疾患部位へ移植する臨床研究が進められており、移植されたミトコンドリアが機能する事が示唆されております。このような背景のもと、性質の異なるミトコンドリアを宿主細胞に導入する事で細胞機能を転換させる事が可能なのではと考え、本研究を着想しました。一方で、単離ミトコンドリアの細胞導入、ミトコンドリア移行・機能変化に関する科学的根拠は乏しく、DDSがキーテクノロジーとなると考えました。本研究では、ミトコンドリア共生用人工ナノカプセル【Trans MIT】の創製に挑戦し、細胞内共生によって真核細胞を爆発的に進化させた【ミトコンドリア】を細胞性質の転換材料として活用する『新しい細胞生物学』の創出を究極の目標に据えます。

具体的には、『ミトコンドリアの細胞内導入を実現するDrug Delivery System (DDS)、Trans MIT』の構築、疾患細胞に治療用ミトコンドリアを導入する『ミトコンドリア機能不全疾患の治療』の検証、異常ミトコンドリアを正常細胞に導入し、細胞機能を転換させた『モデル疾患細胞の創出』を進めており、現在までに一定の成果を得ております。従来の遺伝子・核酸の細胞導入による形質転換とは異なる、ミトコンドリア人工共生が拓く新しい細胞生物学の創出に寄与したいと思います。

オルガネラ製剤の開発

教授・山田勇磨は、「ミトコンドリア病」の新しい治療法の研究開発を目指す創薬プロジェクト『7 SEAS PROJECT』の構成メンバーとなり、研究成果を医薬品開発につなげる活動に参加し、医療・経済・社会への貢献を目指した研究を計画・推進しています。2019年には、我々のDDSをコア技術とて設立されたルカ・サイエンス株式会社(https://ja.luca-science.com/)の科学顧問に就任し、2020年4月からは産業創出講座として、北海道大学・バイオDDS実用化分野の研究代表者に就任しました。北海道大学・産業創出講座は、北海道大学が企業と組織型の大型共同研究を推進するための制度であり、所属する大学院薬学研究院では初の開設となりました。

ルカ・サイエンスは、ミトコンドリア製剤を通じて、様々な病気や傷害によって引き起こされる症状を治療する、全く新しいバイオ医薬品を生み出すことにフォーカスした、前臨床ステージのバイオ製薬企業です。現在はバイオDDS実用化分野において、ミトコンドリアを基盤とするオルガネラ製剤の製剤化に関する研究を推進しています。