芳香ESSAY72-4(2023)「研究者の魂源」を執筆させていただいてから、はや2年が過ぎ、先月ついに古希を迎えた。続編として、私が1988年に始めたC型肝炎ウイルス(HCV)のRNAゲノムのハンティングから1995年ついにゴールしたHCVゲノムの完全解明までの間に起こった研究者間での熾烈な先陣争いのようすやその裏で起こっていたドラマを書くことにした。
当時、HCVゲノムの全容解明にむけて研究者たちの先陣争いは熾烈なものになっており、国内でもカイロン社と共同研究していた国立感染症研究所、自治医科大学そして金沢大学が名のりをあげていた。HCVゲノムの全構造解明のニュースがどこからか聞かれるのではないかと内心ビクビクしながらの日々を送っていた。。。
そして最後のレースが始まる。きっとどのグループも大変だったのだろう。しかし、実際はもっと複雑であった。ほぼ時を同じくして、日本大学医学部のグループによるHCVの遺伝子解析も進んでいるとの情報が入ってくる。さらに、大阪大学微生物学研究所のグループの解析は私たちより進んでいることが肝臓学会後の研究班の会議で判明する。したがって、国内においては三者ではなく、少なくとも五者のレースとなっていたのだ。はたして、どのグループが一番先にゴールできるのかは、この時点ではだれにもわからなかったし、私たちにも自信がなかった。さらに、海外からは明日にでもHCVゲノムの全容が発表される可能性もある。そのため、「ああ〜やられてしまった」という夢もなんどもみた。
実は、私がこのエッセイを書きたかったのは物語に「光のあたる表話」と「影になる裏話」があったからである。ここからは「影になる裏話」である。ときは1989年7月に遡る。。。(一部抜粋)
前作の「研究者の魂源」は以下から閲覧できます。
https://www.pharm.hokudai.ac.jp/alumni/houkou_essay_2023.php