会長挨拶

新型コロナウイルスとどう立ち向かうか ─会長就任の挨拶に代えて

薬学部同窓会会長 松田 彰(15 期)

昨年から同窓会会長を務めさせていただいています15期の松田 彰(薬化)です。副会長として井関さん(22期、北海道医療大学薬学部)、周東さん(23期、創薬有機)、中村さん(26期、中村薬局)、幹事長として武隈さん(38期、北大病院薬剤部)および、常任幹事・各期の幹事の皆様とこの会を運営させていただきます。また、実務的な仕事は、本学卒業生(34期、遺伝子有機)の樋渡さんにお願いしています。

さて、毎日のように「過去最多を更新」する新型コロナウイルス感染者を出しているコロナ禍状況下で、対面での会議が開けずほとんどがメイル会議の状態で具体的な同窓会活動もストップしておりますので、活動報告らしきものは書けません。そこで、小生が、3年生の化学療法学(実際には薬理学IVの7回分)の抗ウイルス薬の部分のために勉強した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)についてあまり報道されていない側面や対策を含めて記したいと思います。

SARS-CoV-2は、1)極めて感染力が強く(最近、イギリス、南アフリカやブラジル発のさらに感染力の強い変異型ウイルスが日本にも上陸しています)、場合によっては悪化速度が非常に速いこと、2)感染しても風邪様症状を示さない無症状患者が約半数以上存在し、この「無症候キャリア」の活発な社会活動により感染者の大量増につながっていること、3)感染症が治ってもかなりの割合で長期に後遺症が残る、非常にタチの悪いウイルスです。SARS-CoV-2は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)にウイルスの突起部分(スパイク)が結合して細胞内に取込まれて増殖します。このACE2がほぼ全身の組織に分布していることが3)の後遺症と関係があると言われています。現在までに、100種類以上の後遺症が報告されています。倦怠感や呼吸苦の症状のほか、胃腸症状、関節痛、味覚・嗅覚・聴覚障害、めまい、脱毛、心筋炎、不整脈、脳梗塞、肺塞栓、静脈血栓塞栓症、川崎病に類似した多系統炎症性症候群、記憶障害、思考力・集中力低下などですが、重症例では血栓症との併発が多く見られるようです。これらの症状は年代に関係なく発症し、一過性ではなく、コロナから回復しても後遺症が長期に続く場合が多いようです。

さて、感染症にかかると一般的には、最初に自然免疫系が活性化されて1型インターフェロン(IFNα, IFNβ)が放出され、敵がきたことを知らせる警戒警報(アラート)になるばかりでなく、感染源と戦ってくれます。この証拠に風邪様症状(鼻づまり、鼻水、喉の痛み、咳、寒気、発熱、頭痛など)が出ます。インフルエンザウイルス感染症の場合には典型的に上記の症状(の一部)がでます。したがって、インフルエンザウイルス感染症の場合に、いわゆる「総合感冒薬」を服用して上記の症状を緩和することが良いことなのかどうかは、医師の間でも意見が分かれるようですが、高熱が出た場合にはCOX阻害剤を服用する方が良いのではないかとも言われています。SARS-CoV-2感染の場合には、このような風邪様症状が出ない(出ても非常に軽度)患者が多く、感染を自覚しないので普通の生活・社会活動を行い、感染者の大量増に繋がっている可能性が高いと考えられています。ウイルスが作るたんぱく質の一つであるORF3bが宿主細胞の1型インターフェロン遺伝子の活性化を抑制して1型インターフェロンの産生を減少させるからです。さらに、ウイルスが作るプロテアーゼの一つであるPLpro (papain-like protease)が、上記のORF3bとは別なメカニズムで1型インターフェロン遺伝子の活性化を抑えて1型インターフェロンの産生を抑制することもわかっています。インターフェロンが作られないので風邪様症状が出ないばかりか、ウイルスと戦ってくれないので体内でのウイルス量は増加します。このような「無症候キャリア」が色々なところでウイルスをまき散らすことを止めない限りこの新型コロナウイルスを退治できません。なんとずる賢いウイルスでしょうか。

すでに皆様もご存知のように、国内での陽性者を年代別にみてみると、20代(全体の約29%)>30代(18%)>40代(15%)>50代(13%)10代+それ以下(8%)>60代(8%)>70代(7%)>80代以上(6%)となります。一方、この感染症による死亡率は、80代以上(17%)>70代(7%)>60代(2%)>50代(0.5%)>40代(0.1%)>30代=20代=10代(0%)であり、重症化率もほぼ同じ傾向です(昨年の10月28日のデータを元に計算)。

先ほど述べた「無症候キャリア」の話と陽性者率及び死亡率を合わせて考えると、取るべき対策は極めて単純で、若年者層の徹底的なPCR検査(感染後5日間はウイルス量が少なくて陰性になることが多いので2週間にわたって2回検査が必要)を行い、陽性者を隔離して社会活動を制限することだと思います。この対策で感染者数の増加を抑制し、重症化患者数の低下を計り、医療崩壊を防ぐことが緊急に必要です(この芳香が発刊される頃にどうなっているかは予測できませんが、ごく少数の自治体でこのような対策を取り始めたようです)。最近発出された一部の自治体に対する部分的な「緊急事態宣言」では一時的に患者数が減少するかもしれませんが、第4波が来てさらに長期化する可能性が大きいように思います。政治が経済活動の低下を恐れるあまり、効果的で大胆・具体的な対策をとれない状況下で、地方が率先して科学的で具体的な対策をとる必要があると思います。

ところで、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス薬の開発はどうなっているのでしょうか。COVID-19治療薬はウイルス侵入期(軽症・中等症)の治療と肺・全身性炎症期(中等症・重症)の治療と分けて考える必要があるようです。初期感染からどのようにして重症化するかはあまりよくわかっていませんが、先に述べた自然免疫が活性化されすぎてサイトカイン・ストームというコントロール不可能な状態に陥ります(自然免疫が活性化されずに無症状になったり、活性化されすぎてコントロールが効かなくなったりで、この感染症は非常に複雑です)。したがって、感染初期は抗ウイルス薬でウイルス増殖を効果的に抑制し、その後は抗炎症作用を示す薬が良いと言われています。最初の頃提案された既存薬でin vitroで抗SARS-CoV-2活性を示す化合物、例えばファビピラビル(アビガン)は、臨床試験が二重盲検ではなく単盲検(医師はどちらを投与したかを知っている)で被験者数が少ないので結果の信頼性が低く外国の試験結果が出るまでペンデング(しかし、投与量が多く、催奇形性が出る副作用あり)、レムデシビル(もともとC型肝炎薬として合成、RNAウイルスに広く効果を示し、特に抗エボラウイルス薬として臨床試験が行われたが効果不十分)は、5’モノリン酸体のプロドラッグ(同じ仕組みの別の薬が抗HCV薬、抗HBV薬として臨床使用されている)であり、肝臓で代謝されます(最近、肝臓に対する毒性発現の報告あり)。米国NIH主導の入院患者1062人を対象とした第3相試験で、プラセボの回復期間が15日なのに対してレムデシビル投与群では10日と有意な差が出て、日本、米国で承認されました。しかし、その後行われたWHO主導の3000人規模の臨床試験ではまったく効果なしとの報告(詳細不明)あり、臨床試験の難しさを示しています。しかし、この薬は重症者よりも感染初期の患者によく効きますので現状の使用法は間違っていると思います。重症者の治療に期待されたアクテムラ(抗IL-6抗体)も効果がなく(最近の臨床試験では効果ありの判定)、現在、唯一使用できるのはデキサメタゾンだけです。このように、有効な薬がない状態で患者を治療せざるを得ない医療関係者の努力には脱帽しかありませんが、薬剤師の姿がその場に全く見受けられないのは少し残念です。

そうすると、唯一期待できるのはワクチンということになるのでしょうか。従来のワクチンは、基礎研究から安全なワクチンができるまでに平均10−15年かかると言われていました。しかし、この状況下でわずか1年以内に幾つかのワクチンが使えるようになっています。先陣を切ったのはSARS-CoV-2のスパイクたんぱく質に対するメッセンジャー(m)RNAを用いるワクチンです。詳細がほとんど公開されていないので色々な記事を集めて断片的にしか理解できませんが、mRNAを脂質ナノ粒子に包んで筋肉細胞内で発現させるようです。mRNAは、数千ヌクレオチドが連なったRNA分子で5’末端にキャップが、3’末端にpoly Aが結合し安定性や翻訳効率を上げています。また、いくつかの修飾ヌクレオシドも含まれていて何らかの役割を担っています。しかし、このような巨大分子は化学合成できませんので酵素合成に頼っています。そうすると修飾ヌクレオシドがどの程度どこに導入されているのか?その細胞内での安定性や翻訳効率は?など多くの疑問が出てきます。現在、世界各国で使用され始め、日本では2月末から接種が行われるようです。ワクチンを投与しても感染しないわけではありません。ワクチン投与後、どのような標的たんぱく質がどのくらい持続して発現するかが問題で、その後、感染した場合に、果たしてウイルスのスパイク蛋白に結合できる中和抗体ができているかどうかです。まったく役に立たない抗体ができる場合、逆に抗体依存性感染増強に繋がることも知られていますのでウイルス感染が起きないとワクチンがうまく働いたかどうかが判断できません。

ワクチンに対する過度の期待は禁物ですが、先に述べた対策を併せて実施することにより感染者数を圧倒的に低下させ、オリンピック・パラリンピックの開催にこぎつけられることを願っています。個人でできることは限りがありますが、3密を避け、マスクをして、手洗いを十分にして他人に感染させない・感染しないことは最低限必要です。これからインフルエンザウイルス感染が心配です。今年の流行はH5型で、非常に強毒型です。2009年に豚インフルエンザウイルス(H1N1)がパンデミックになった時、実は、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)の流行を心配してタミフルの備蓄や色々な対策を立てていました。しかし、実際は、H1N1豚インフルエンザウイルスのパンデミックになったことは記憶に新しいと思います。インフルエンザウイルスはRNA ポリメラーゼに校正機能がないので変異が激しく「抗原シフト」が起こるとパンデミックになりやすいのですが、今回のSARS-CoV-2のRNA ポリメラーゼには校正機能が付いているのでインフルエンザウイルスのような大きな変異は起こらないだろうと考えられています。また、3密を避け、マスクをして、手洗いを十分にすることでインフルエンザウイルスの流行を抑えることができるように思います。しかし、皆さん、油断は禁物です。しっかりとした対策を立ててこのような時期を無事に乗り越えましょう。

2021年1月16日 記

P.S.
参考文献は付けませんでしたが、 にメイルをいただければおしらせします。