会長挨拶

同窓会活動の見える化を目指して

創薬科学研究教育センター・招聘(名誉)教授、薬学部同窓会長 松田 彰(15 期)

中国武漢に起源を持つSARS-CoV-2は瞬くうちに世界を席巻し、パンデミックを引き起こしほぼ2年間続いています。この間、多くの人々の心は萎縮し、経済は低迷し、どのようにパンデミックを終息させ、パンデミック後の世界をどうするのかも未だ見通せない状況です。同窓会も昨年と同様に、あまり積極的な活動ができていません。今期は、それでも7月末に幹事会を薬学部で開催し、今後の方針の議論をしました。

以下にその内容を簡単に示します。

同窓会活動の見える化−1

同窓会活動を知らない現役学生・院生が多く存在するようなので、同窓会活動をわかりやすくまとめたパネル2枚を幹事長に作成していただきました。それらを、2階生協の向かいのリフレッシュスペース(ここに同窓会が寄付をしたソファー、食事のための机・椅子などが置いてあります)の壁と、3階同窓会室の壁に設置してもらいました(同窓会のFacebookページに写真が載っています。https://www.facebook.com/hokuyakudousou/)。少しは同窓会活動の理解に繋がればよいと思っています。)

同窓会活動の見える化−2

同窓会誌芳香は71号を迎えます。学部創立以来ほぼ連続して発行し続けるのは並大抵の努力ではできません。一時的にかなり分厚くなったこともありますが、最近では財政事情が悪化し、ページ数の削減、若い卒業生諸君には郵送せず、同窓会ホームページ(https://www.pharm.hokudai.ac.jp/alumni/index.php)から見てもらう方式に変えています。最近の主な内容は、同窓生の交流の場の提供ですが、「人生100年」時代を迎え、「リメディアル」教育の重要性が叫ばれ、「知識」時代になっている現在、薬の総合科学の教育・研究を実施している北大薬学部の同窓会誌としてもう少し相応しい内容に変えて継続したいと思いました。そこで幹事会に諮りましたが異論がありませんでしたので、芳香担当の大野祐介先生(49期、生化学助教)と事務局の樋渡洋子さん(34期)と相談して、1)「話題の薬」という記事を病院薬剤部に書いてもらうこと、2)各研究室の研究の話題をできれば若い先生に書いてもらうこと、3)もう少し広く世界で話題になっている薬の科学を含めた話題を書いてもらうこと、を決めました。2)については、今年は生体分析化学の小川先生と創薬研究教育センター長の前仲先生にお願いしましたが、来年からはもう少し若手の先生に書いてもらえることを願っています。3)については、最初はどなたにもお願いできないので、当面、小生が担当することにしました。今回は、「COVID-19治療薬モルヌピラビルは経口投与で初期感染に効果を示すが催奇形性に要注意」と「COVID-19に対するmRNAワクチンの開発」をすでに投稿しましたが、現在、もう一つ書く予定にして策を練っています。できるだけ分かりやすく書いたつもりですが、分かりにくいと感じる方も多いと思いますので是非感想をお寄せください。いつまでも小生が書き続けられるわけではありませんので、同窓生諸氏からの投稿を歓迎します(事情があって名前を出せない方はペンネームでも結構です)ので、次号からは是非お願いします(原稿を小生宛に送って下されば必要に応じて加筆・訂正を加えさせていただき掲載します:)。なお、これらの「ちょっと科学的な記事」を「芳香SCIENCE」と称して、紙媒体の芳香が発行される前に、随時、同窓会ホームページに掲載することにしました(従って、紙媒体の芳香に掲載するには締め切りがありますが、同窓会ホームページには随時掲載しますので出来上がり次第送ってください)。

現在私達が考えている「同窓会活動の見える化」事業は、上述した2つですが、もし他にアイデアがありましたら是非ご一報ください。

なぜ、同窓会活動の見える化が必要なのか

書く順序が逆になりましたが、ここで、なぜ同窓会活動の見える化が必要なのかの本音を述べたいと思います。すでにご存知のことと思いますが、当同窓会の財政事情はそんなに良くありません。上述したように芳香のページ数削減、印刷部数削減など、かなりの経費削減をしていますが同窓会活動を積極的に展開できるまでには到達していません。現役の学生・院生諸君が在籍中に研究活動を楽しんで行ってもらうのをエンカレッジするのが同窓会の目的の一つだと思います。そのためには、やはりお金が必要です。同窓生諸氏が、薬学部同窓会はよくやっているから同窓会費を払おう・寄付をしようという気になってもらいたいのです。

すでにかなりの長期に亘って、大学院博士課程の定員は充足されていません。研究に興味がないから進学しないのではなく、かなりの部分が経済的な問題で進学を断念しているように思います。もし、同窓会が彼らに少額でも、返還義務のない奨学金を渡せたら状況は少し変わるかもしれません。私ごとで恐縮ですが、小生は退職してから、将来博士課程に進学したい修士課程の学生に少額ですが返還義務のない奨学制度(年2名)を作り運用してもらっています。小生の寄付した額は極少なく、そんなに長期に亘って運用できませんので、その後を同窓会が引き継いでくれると素晴らしいと思っています。現在、日本中の大学で博士課程に進学する学生が激減しています。従って、外国留学する学生も減り、研究室で助教(昔の助手)や准教授を公募してもなかなか応募がないそうです。これが日本の科学技術が低迷している大きな原因の一つです。

「先輩と語る講演会」というのを同窓会が後援しているのをご存知でしょうか。社会で頑張っている卒業生に自分の人生の成功・失敗談や仕事の話をしてもらい、現役学生が将来職を選ぶ時の参考にしてもらえればと思って、小生が学部長の時に始めました。すでに46人の方にボランティアとして参加してもらっています。以前は、講演の後に懇親の場を設けていましたが、現在はそれもできません。

6年制が定着し、薬剤師になる学生が増えてきています。国立大学卒業の薬剤師は全体のごく一握りしかいませんが、彼らの受けてきた教育・研究活動は薬剤師全体から見るとかなり稀有だと思います。従って、その力を現場で更に十分に発揮するには、是非、専門薬剤師になってその領域を引っ張っていって欲しいのです。単に、出てきた処方箋通りに薬を出すだけではなく、処方箋が書ける「薬物治療」の専門家になって欲しいと思っています。そのためには日々更新される薬物情報を的確に伝える「卒後研修」が重要になります。その講師を本学卒業生が担って欲しいのです。

一方、同窓会事務局の仕事はすごく増えています。しかし、現状ではごく少額の賃金しか支払っておりません。ほとんどの仕事はネットでできますので同窓会室に来ない日も家で何十倍の仕事をやってもらっている状況ですが、これを少しでも解消したいと考えています。再度訴えます。同窓会事業を積極的に行うためには資金が必要です。ぜひ、会費納入と寄付をお願いします。同窓会費の支払い方法を改善して欲しいという意見がありますので、それについては次年度に取り組みたいと思います。

その他の事項

1)「前会長の待遇と会則の整理」について臨時幹事会を書面で開催し、以下の事項を審議・決定しました。

現在、会則にない「顧問」を前会長の役職として運用してきましたが、実際は役職がないままなので、「相談役:前会長、役割:現会長のサポート及び同窓会運営への助言。顧問:元会長、役割:同窓会に対する名誉職」として定義し、それに伴う会則の整理を提案しました。過半数の賛成で承認されました。

2)薬学祭2021実行委員会が小生のところに同窓会について話をしてほしいと頼みにきました。小生は、対面で講演するものだと思って承諾したところ、急遽、オンラインに変更になり慌てて、「北大薬学部の昔と今、そしてこれから」という題でカメラの前で話をしました。その動画は、同窓会のホームページやfacebookから見ることができるようになっています。

3)同窓会のホームページには沢山の記事や卒業生の活躍の様子・読者からの反響がタイムリーに載っています。事務局の樋渡さんが頑張ってやってくれていますので是非ご覧ください。また、facebookでも見れるようになっています。

同窓会ホームページ: https://www.pharm.hokudai.ac.jp/alumni/index.php

Facebookページ:https://www.facebook.com/hokuyakudousou/

北大の薬剤師がワクチンの職域接種を手伝いました

北大でもワクチンの職域接種が行われ、総長からの依頼で病院薬剤部の薬剤師のみならず薬学部の薬剤師(教員+大学院生)がワクチンの分注を行いました。COVID-19の医療ケアに薬剤師が出てこないのはおかしいと思っていましたが、上記のことがあって少しだけほっとしました。ワクチン接種だけでなく、PCRを行うにも人手が足りないとの報道が沢山あり、なぜ、薬剤師に協力してもらわないのだろうかと疑問に思っていましたが、何かそれを抑える力が働いているようにも思えてなりません。薬剤師は病院ではチーム医療の一員として各病棟で患者の薬物管理を担当しているはずですが、なぜ、COVID-19の医療ケアには参加できないのか、もちろん、参加すると感染する可能性があるのでしない方が良いという意見もあると思いますが、裏方としてワクチンの分注だけで本当にチーム医療の一員になれるのでしょうか。このような時期に薬剤師の職域を少しでも広げておくことは、薬剤師の将来にとって重要なことではないでしょうか。同窓生諸氏の頑張りを期待しています。

大学院生の就職活動が大変なことになっています

同窓会会長の挨拶には適さないかもしれませんが、皆さんがご卒業・修了の頃と最近の就職活動ガラリと変わってきていますので是非読んでください。良い方に変わっているなら問題はありませんが、皆困っているのです。昔は、希望する会社に連絡すると面接の連絡がきて旅費・宿泊費付きで面接試験を受けることができました。それを数回繰り返して内定・不採用が決まり、ダメな場合は別な会社に再度挑戦となりました。全体として長くとも2ヶ月くらいで決まったように思います(もう少し複雑だったかもしれませんが、就職活動がそんなに大変であったという印象ではありません)。ところが、リクルート社が「リクナビ」というシステムを作り(今では似たようなシステムが幾つかあるようです)、企業がそれを採用して以来、修士課程院生の就職活動(博士課程院生の就職活動は昔と似ています)がガラリと様変わりしました。現状では、修士1年の秋からインターンシップの募集があり、興味のある会社に応募し、採用されると参加します(昔と異なり、これに参加したからと言って実際の就職に役に立つわけではないようです)。年が明けてから各社のネットでの募集が始まり、エントリーシート(なぜ、その会社を志望するかや大学時代の特記事項などなど、各社異なったことを書くようで、これに最も時間が割かれるようです)を書いて提出します(昔のように数社ではなく、数十社から百社も出すようです)。その間に、会社説明会に出席します(北大や薬学部でも同様な会社説明会を開催していますが、それに出たからと言って何のメリットもないので、最近は参加者が減っているようです)。関東や関西出身の学生は、この間出身地に戻りこれらのことを自宅でやっていますが、以前、小生の研究室にいた学生は、その両方に知り合いもいなかったので、友人と共同でマンスリーマンションを借りていました。この間、約半年間、研究室にも顔を出さず専ら就職活動を続けています(すでに卒業した先輩と会って会社の様子を聞いたり酒を飲んだりもしているようです)。学生達は、この活動をあたかも自分たちの権利であるかのように錯覚し、教員が文句を言うと「パワハラ」だとくってかかる学生もいると聞いています。従って、教員は学生に何も言わないようになっています。修士1年生の秋から長い学生で2年生の夏まで就職活動に専念し、ほとんど実験をしません(最近は、コロナ禍なのでオンラインで面接をする会社が増えました。しかし、学生は札幌にいるからといってエントリーシート作成に没頭するために研究室には顔も出しません)。実験に一番脂がのっている時期がすっぽりと抜けてしまうのです。企業の方は、このようなネットシステムに対応するために人事係の人数を増やしているようですが、何千通ものエントリーシートをそんなに簡単に捌き切れるものではないように思います。このようなシステムを使って、苦労して採用した学生は本当にその会社が必要とする人材なのでしょうか。また、そこに就職した学生は本当に満足なのでしょうか。このような就職システムは学生(研究室)にとっても、会社にとってもwin-winの関係ではないように思います。

このような状況を改善すべきだとは皆思っていますが、誰一人として行動を起こしません。しかし、このままではジリ貧ですので何とか解決しなければなりません。北大の評議会、日本薬学会の理事会、製薬団体連合会、製薬協などに訴えて何とか解決の緒を見つけて欲しいと思っています。経団連が入社試験の解禁日を決めるのは、就職活動が長期化しているという批判ですでに中止されています。今のような全員一律(文系と一緒)の就職活動をするのではなく、少なくとも実験系は例外にしてお互いにwin-winになる方式を見つけ出すべきです。米国と同様に、人材を必要とする企業が大学の教員に連絡して、そのような人材がいる場合に、企業が大学の研究室を訪問して一次面接をするのが合理的なように思います。

2021年12月20日 記