Research

研究内容

2. 長鎖塩基の代謝と脂肪酸α酸化経路の解明

生体分子には,ほぼ例外なく合成経路だけでなく分解経路も存在しており,両者のバランスによって恒常性(ホメオスタシス)が維持されている。不要となった分子を排出によって除去するという仕組みも考えられるが,実際には分解を通じてエネルギーを回収したり,他の生体分子の合成に再利用したりしている。このように,生体は極めて効率的かつ無駄のない仕組みによって成り立っている。このことはセラミドに関しても当てはまる。セラミドはセラミダーゼによって脂肪酸と長鎖塩基へと分解される。脂肪酸はアシル CoA へと変換されて活性化された後,脂肪酸β酸化によってエネルギー産生に利用されるほか,脂質の構成成分としても利用される。一方,長鎖塩基はそのままではスフィンゴ脂質への再利用にほぼ限られる。そのため,長鎖塩基を脂肪酸/アシル CoA へと変換する分解経路が備わっている。この分解経路において,長鎖塩基はまず長鎖塩基 1-リン酸へと変換される。例えば,長鎖塩基がスフィンゴシンである場合には,スフィンゴシン 1-リン酸(S1P)が産生される。S1P は現在では脂質メディエーターとしての役割が広く知られているが,進化の過程においては,もともと長鎖塩基分解経路におけるスフィンゴシンの代謝産物として生じたと考えられる。S1P は進化の比較的新しい時期(脊索動物以降)に,脂質メディエーターとしての機能を獲得した。一方で,長鎖塩基 1-リン酸は,進化的に古くから長鎖塩基分解経路の代謝中間体として,酵母から哺乳類に至るまで広く産生されている。

S1P の脂質メディエーターとしての役割と合成・分解に関しては1990 年代終わりから 2000 年代にかけて活発に研究がなされ,S1P 受容体の同定,S1P の合成(スフィンゴシンキナーゼ)および分解酵素(S1P リアーゼおよびホスファターゼ)の同定,それらのノックアウト(KO)マウスの解析による脂質メディエーターとしての生理的意義の解明,さらには臨床応用(多発性硬化症治療薬;フィンゴリモド)までなされた。一方,分解経路という観点では,長鎖塩基 1-リン酸が開裂を受けて長鎖アルデヒドとなり,その後アシル CoA を経て代謝されること自体は 1960 年代から知られていた。しかし,その詳細,すなわち経路に関わる遺伝子,反応の種類や順序に加え,特定の長鎖塩基については代謝中間体や最終的なアシル CoA 産物すら明らかでなく,また分解経路異常と病態との関連についても長年不明であった。我々は特に旧生体機能科学研究室に所属していた 2000 年代に主に S1P/長鎖塩基1-リン酸およびフィンゴリモドリン酸(フィンゴリモドの活性本体)の合成,分解,細胞からの放出に関して研究を行った。その後,2008 年に生化学研究室をスタートしてからは不明であった長鎖アルデヒド以降の長鎖塩基分解経路に焦点をあてた研究を行い,ほぼその経路の全容と分解異常に起因する病態について解明した。

脂質メディエーターとしての S1P

S1P は血漿中に数百 nM の濃度で存在する脂質メディエーターである。S1P は形質膜上に存在する S1P 受容体のリガンドとして,細胞運動の制御,アクチン骨格の形成,細胞増殖,接着結合の形成など,さまざまな細胞応答を引き起こす1, 2)。S1P 受容体としては S1PR1 からS1PR5 の 5 種類が存在し,中でも S1PR1 が生理的に最も重要である。これらは互いに高い相同性を示す G タンパク質共役型受容体であり,それぞれが特異的な G タンパク質を介して細胞内シグナルを伝達する(図5)。

S1P は血漿中に多く見られることから,血漿に接している血管内皮細胞とリンパ球への効果が生理的に重要である。前者(血管系)においては胎生期の血管形成,後者(免疫系)においてはリンパ球の胸腺・二次リンパ組織からの移出過程に重要である。T リンパ球は胸腺で成熟後,血液へと移出し,血液と二次リンパ組織中を循環する(図 6)。未感作 T リンパ球は二次リンパ組織へ移行後,抗原を提示されなかった場合はそのまま血液へと戻るが,抗原提示細胞によって提示された抗原を認識した場合はエフェクター細胞へと分化,増殖後,血液へと戻る。胸腺及び二次リンパ組織からの移出には,S1P および S1PR1 が中心的な働きをしている1, 3)。リンパ球上に発現している S1PR1 が胸腺–血漿間,あるいは二次リンパ組織–リンパ液–血漿間の S1P 濃度勾配に依存した化学遊走を引き起こす。あるいは二次リンパ組織からの移出を制御している内皮細胞上の S1PR1 が,内皮細胞間の接着結合を調節している。もし,リンパ球上の S1PR1 がなくなるか,S1P 濃度勾配が失われると T リンパ球は胸腺あるいは二次リンパ組織から移出できなくなり,循環 T リンパ球が減少して免疫抑制が引き起こされる。多発性硬化症の治療薬である免疫調整剤フィンゴリモド(開発コード名 FTY720)は生体内でリン酸化されてフィンゴリモドリン酸に変換後,S1PR1 のリガンドとして作用し,S1P よりも強力に S1PR1 を細胞表面からダウンレギュレート(細胞表面へリサイクルさせずにリソソームで分解)させることで免疫抑制を引き起こす。

上述のように,組織–血漿間の S1P 濃度勾配の維持は極めて重要である。一般的に,組織内の S1P 濃度は低く保たれているが,これは合成酵素であるスフィンゴシンキナーゼの活性よりも,分解酵素である S1P リアーゼおよび S1P ホスファターゼの活性が優勢であるためである。一方,血漿中の S1P 濃度は,赤血球や内皮細胞からの供給と,血漿に接する細胞への取り込み,あるいは細胞表面のホスファターゼによる分解とのバランスによって規定されている。我々はこれまで,これら S1P/長鎖塩基およびフィンゴリモド(リン酸)の代謝酵素およびその動態に関して,以下のような知見を得た。

  1. ヒト S1P ホスファターゼ遺伝子として SGPP2(別名 SPP2)を同定し,その遺伝子産物の酵素学的性質を明らかにした4)
  2. S1P ホスファターゼと S1P リアーゼはいずれも小胞体に局在するが,それぞれの活性中心は小胞体膜の内腔側とサイトゾル側に位置し,空間的に隔てられている5, 6)
  3. 赤血球は S1P 分解酵素を欠くため,S1P を高濃度に蓄積しており,血漿中 S1P の主要な供給源として機能する7)
  4. 血漿中フィンゴリモドリン酸の供給源は赤血球ではなく血小板である8)
  5. フィンゴリモドリン酸は血管内皮細胞膜上のリン脂質ホスファターゼ PLPP(別名LPP)により脱リン酸化され,不活性化される9)
  6. マウススフィンゴシンキナーゼ 1 の転写バリアント(SPHK1a,SPHK1b)は,細胞内局在,オリゴマー状態,翻訳後修飾,安定性など,酵素学的性質が大きく異なる10)
  7. 細胞外の S1P の大部分は細胞表面のリン脂質ホスファターゼ PLPP による脱リン酸化後に細胞内へ取り込まれるが,一部は S1P のまま直接取り込まれ,特に赤血球において顕著である11)。この S1P の取り込みには SPNS2 および MFSD2B が関与する。これらは従来,S1P を細胞内から細胞外へ放出するトランスポーターとして知られていたが,我々はこれらが形質膜を介した双方向輸送が可能なチャネル型トランスポーターであることを明らかにした11)
  8. 細胞外の長鎖塩基は細胞内に速やかに取り込まれるが,この取り込みはアシル CoA 合成酵素(酵母では Faa1 および Faa4,哺乳類では ACSL)依存的である12)。これらの酵素は脂肪酸トランスポーターとして同定された経緯を有し,長鎖塩基トランスポーターとしても機能する可能性がある。
  9. 酵母において,長鎖塩基を細胞内から細胞外へ排出するトランスポーターとして Rsb1 を同定した13)
  10. 酵母の長鎖塩基 1-リン酸代謝酵素の解析を通じて,酵母スフィンゴシンキナーゼ Lcb4 に多様な翻訳後修飾(パルミトイル化,リン酸化,ユビキチン化)が存在することを見出し,それらによる細胞内局在および安定性の制御機構を明らかにした14–16)

長鎖塩基分解経路とスフィンゴシン代謝中間体としての S1P

S1P は細胞外で脂質メディエーターとして機能するが,その産生は細胞内で行われる。ほとんどの細胞が S1P を産生するが,S1P を細胞外へ放出するのは血球や血管/リンパ管内皮細胞など一部の細胞に限られる。他の細胞では(おそらく S1P を放出する内皮細胞においても),大部分の S1P は細胞外へ放出されることなく,細胞内で代謝される。S1P が細胞内でセカンドメッセンジャーとして機能するという説もあるが,細胞内 S1P は主として代謝中間体として位置付けられる。スフィンゴ脂質のセラミド部分は,セラミダーゼによる加水分解により,脂肪酸と長鎖塩基(S1P の場合はスフィンゴシン)へと変換される。長鎖塩基/スフィンゴシンは再び脂肪酸と結合してセラミドとなり,複合スフィンゴ脂質合成へ再利用される(salvage 経路)か,あるいは長鎖塩基 1-リン酸/S1P を経てアシル CoA(C18 の炭素鎖長をもつスフィンゴシンの場合はパルミトイル CoA)に変換される(図7)。アシル CoA はその後,直接あるいは脂肪酸伸長や不飽和化を経て,脂質代謝(主としてグリセロ脂質へ,一部はスフィンゴ脂質などへと代謝)またはβ酸化に利用される。長鎖塩基分解経路は,スフィンゴ脂質の長鎖塩基部分をアシル CoA へと変換する唯一の経路である。そのため,この経路はスフィンゴ脂質のホメオスタシス維持に重要であり,その破綻は正常な細胞機能を損なう。実際に,スフィンゴシン代謝経路において最初の不可逆反応を触媒する S1P リアーゼSGPL1遺伝子の変異は,多臓器障害を特徴とする遺伝性疾患である RENI 症候群の原因となる。また,Sgpl1 KO マウスでは,肝臓の代謝異常に加え,肺,心臓,尿管,骨に形態異常が認められ,寿命も約1ヶ月と著しく短い。

スフィンゴシンの分解経路において,S1P リアーゼの産物であるトランス-2-ヘキサデセナール以降の代謝経路ならびに関与する遺伝子は,長年不明であった。生化学研究室ではこの解明に取り組み,スフィンゴシンのみならずジヒドロスフィンゴシン,フィトスフィンゴシン,スフィンガジエンを含む長鎖塩基分解経路の全容を明らかにした(図7)17–25)。長鎖塩基分解経路においては,長鎖塩基の種類にかかわらず,リン酸化(長鎖塩基 1-リン酸の産生),開裂(長鎖アルデヒドの産生),酸化(長鎖脂肪酸の産生),CoA 付加(アシル CoA の産生)という共通のステップが存在する(図7,オレンジ色矢印)。生化学研究室では,これら共通反応の後半 2 反応に関与する酵素,すなわち酸化反応を担う脂肪族アルデヒドデヒドロゲナーゼ(動物では ALDH3A2,酵母では Hfd1),および CoA 付加反応を担うアシル CoA 合成酵素(動物では主に ACSL1,酵母では Faa1,Faa4)を明らかにした26, 27)。炭素数 n の長鎖塩基の分解経路では,SGPL1 による開裂反応により,炭素数 n−2 の長鎖アルデヒドと炭素数 2 のエタノールアミンリン酸が生成される。生じた炭素数 n−2 の長鎖アルデヒドはその後,対応する炭素数 n−2 のアシル CoA へと代謝される。ただし,フィトスフィンゴシンの場合には途中にα酸化過程が存在するため,例外的に炭素数 n−3 のアシル CoA が産生される。以下に,炭素数 18 の長鎖塩基の代謝を示す。長鎖塩基は,水酸基の数,炭素鎖長,不飽和度に基づき,例えば C18:0 のジヒドロスフィンゴシンの場合は d18:0 のように表記する。d は水酸基が 2 つ(di)であることを示し,フィトスフィンゴシンのように水酸基を 3 つ有する場合には t(tri)を用いる。最も単純な長鎖塩基であるジヒドロスフィンゴシン(d18:0)は,本分解経路によりパルミトイル CoA へと変換される。C4–5 位間にトランス二重結合を有するスフィンゴシン(d18:1)も同様にパルミトイル CoA へと代謝されるが,そのためには二重結合の飽和化反応が必要である。生化学研究室では,トランス-2-エノイル CoA レダクターゼ(TECR)がトランス-2-ヘキサデセノイル CoA からパルミトイル CoA への変換反応を触媒することを明らかにした28)。同様にスフィンガジエン(d18:2)も,代謝過程においてC4–5 位間のトランス二重結合が飽和され,シス-12-ヘキサデセノイル CoA へ変換される29)

長鎖塩基代謝に関与する脂肪族アルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子 ALDH3A2 は,シェーグレン・ラルソン症候群(SLS)の原因遺伝子である(SLSに関しては 「4. 表皮におけるセラミドとバリア形成」 にも記載)。SLS は皮膚魚鱗癬,精神遅滞,痙性対麻痺を特徴とする遺伝性疾患であり,ALDH3A2 の基質である脂肪族アルデヒドの蓄積が発症に関与すると考えられている。どの脂肪族アルデヒドが主たる原因物質であるかは未解明であるが,我々の結果はスフィンゴシン代謝経路由来のヘキサデセナールが SLS の魚鱗癬症状の発症に関与することを示唆している。

ALDH3A2 は長鎖塩基由来の長鎖アルデヒドの代謝に中心的な役割を果たすが,ALDH3A2 が欠損した細胞においても長鎖塩基分解経路は完全には遮断されない。これは,ALDH3A2 と相同性を有する他の脂肪族アルデヒドデヒドロゲナーゼが代償的に機能するためである。生化学研究室では,ALDH3B1,ALDH3B2(ただしヒトでは遺伝子が偽遺伝子化しており機能を喪失),および ALDH3B3 が,ALDH3A2 と同様にヘキサデセナールを含む長鎖アルデヒドに対して高い酵素活性を示すことを明らかにした30, 31)。これらの脂肪族アルデヒドデヒドロゲナーゼは類似した基質特異性を有する一方で,細胞内局在は異なる(ALDH3A2 は小胞体,ALDH3B1 および ALDH3B3 は形質膜,ALDH3B2 は脂肪滴)30, 31)。脂肪族アルデヒドデヒドロゲナーゼの中で,ALDH3A2 の長鎖塩基代謝への寄与が最も大きいのは,長鎖塩基分解に関わる反応が小胞体で進行し,ALDH3A2 の局在と一致するためであると考えられる。

Aldh3a2 KO マウスの表皮の解析では,野生型マウスと比較して,表皮全体における脂肪族アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性に有意な変化は認められず,皮膚バリア形成や水分蒸散量にも影響は見られなかった32)。これは,マウス特異的に存在するAldh3b2による機能代償に起因すると考えられる。実際に,Aldh3a2 Aldh3b2 二重 KO マウスでは皮膚バリア異常が認められた33)。 一方,Aldh3a2 の欠損はマウスの脳においては脂肪族アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を野生型マウスの約 3 割に低下させ,軽度な運動機能異常を引き起こした34)Aldh3a2 KO マウスの脳ではミエリンの機能維持に重要なスフィンゴ脂質である 2-ヒドロキシガラクトシルセラミドの量が低下していた。その原因として,Aldh3a2 KO マウス中で蓄積したトランス-2-ヘキサデセナールが,脂肪酸 2-水酸化酵素 FA2H の基質ポケットに入り込んでその活性中心残基を修飾したことに起因すると考えられる。

脂肪酸α酸化

セラミドを構成する長鎖塩基の中で,4 位に水酸基を有するフィトスフィンゴシンは,哺乳類では表皮,食道,胃,小腸,大腸,腎臓などの上皮系組織に限局して存在する一方35),酵母では主要な長鎖塩基である。生化学研究室では,フィトスフィンゴシンがスフィンゴシンやジヒドロスフィンゴシンとは異なり,奇数鎖脂肪酸(t18:0 フィトスフィンゴシンからはペンタデカン酸)へと代謝されることを見いだした(図7)36)。フィトスフィンゴシン代謝の前半はスフィンゴシンやジヒドロスフィンゴシンと同様であり,長鎖塩基 1-リン酸(フィトスフィンゴシン 1-リン酸),長鎖アルデヒド(2-ヒドロキシヘキサデカナール),長鎖脂肪酸(2-ヒドロキシパルミチン酸)へと順次変換される。フィトスフィンゴシンにはもともと 4 位に水酸基が存在するため,この過程で 2 位に水酸基を有する脂肪酸(2-ヒドロキシパルミチン酸)が生成される。この水酸基の存在がその後の代謝を特徴づけており,2-ヒドロキシパルミチン酸はα酸化を受けることで炭素数が 1 つ短縮されるとともに水酸基を失う。生化学研究室では,酵母におけるフィトスフィンゴシン分解経路におけるα酸化に関与する遺伝子として MPO1 を同定した36)。Mpo1 は原核生物から下等真核生物に至るまで保存されたタンパク質ファミリー DUF962(DUF: Domain of Unknown Function)のメンバーである。このファミリーにはこれまで 3,000 を超えるタンパク質が同定されているが,機能が解明されたのは Mpo1 が初めてである。その後の解析から,Mpo1 は鉄イオンを補因子とし,2-ヒドロキシ脂肪酸を 1 炭素短い非水酸化脂肪酸へと変換する新規のジオキシゲナーゼであることが明らかとなった37)。Mpo1 の活性には高度に保存された 3 つのヒスチジン残基が必要であり,これらが鉄イオンに配位する38)。Mpo1 はフィトスフィンゴシン分解経路由来の長鎖 2-ヒドロキシ脂肪酸に加え,脂肪酸代謝によって生じる 2-ヒドロキシ脂肪酸全般(極長鎖 2-ヒドロキシ脂肪酸を含む)も基質とする38)MPO1 遺伝子の欠損は通常の培養条件下では酵母の生育に影響を与えないが,小胞体ストレスや炭素飢餓条件下では生育遅延を引き起こす38)

長鎖塩基の代謝経路および代謝遺伝子群の多くは酵母から哺乳類まで保存されている。しかし,フィトスフィンゴシン代謝経路における脂肪酸α酸化は酵母と哺乳類で異なる(図7)。哺乳類には Mpo1 ホモログが存在せず,その代わりに,2-ヒドロキシパルミチン酸が 2-ヒドロキシパルミトイル CoA へと変換された後,主に 2-ヒドロキシアシル CoA リアーゼ HACL2(部分的に HACL1)によってペンタデカナールへと開裂し,さらに脂肪族アルデヒドデヒドロゲナーゼ ALDH3A2 によってペンタデカン酸へと変換されることを我々は見出した39)。HACL2 は我々が新規に同定した 2-ヒドロキシアシル CoA リアーゼであり,小胞体に局在する39)。 これまで脂肪酸α酸化はペルオキシソームで行われると考えられていたが,我々は小胞体における脂肪酸α酸化の存在を初めて明らかにした。奇数鎖脂肪酸については,量は少ないものの生体内に存在することが知られていたが,これまでは脂肪酸合成酵素がアセチル ACP の代わりにプロピオニル ACP を用いることで生成されると考えられてきた。我々の結果は,それに加えて,フィトスフィンゴシンや脂肪酸の 2 位水酸化によって生じた 2-ヒドロキシ脂肪酸のα酸化によっても奇数鎖脂肪酸が生成されることを示している。実際に,Hacl2 KO マウスの脳では奇数鎖モノヘキソシルセラミド(大部分がガラクトシルセラミド)が野生型マウスの約 4 分の 1 に,胃では奇数鎖セラミドが約半分に減少する40)

脂肪酸α酸化の基質は 2-ヒドロキシ脂肪酸に限らず,3 位がメチル化された分岐脂肪酸も含まれる。我々は,2 つの 2-ヒドロキシアシル CoA リアーゼアイソザイムである HACL1 と HACL2 が,2-ヒドロキシ脂肪酸と 3-メチル脂肪酸の両方の代謝に重複して関与する一方で,HACL1 は主に 3-メチル脂肪酸,HACL2 は主に 2-ヒドロキシ脂肪酸のα酸化を担うことを明らかにした40)。脂肪酸α酸化の生理的役割は奇数鎖脂肪酸の産生そのものではなく,むしろそのままではグリセロ脂質への代謝やβ酸化を受けない 2-ヒドロキシ脂肪酸および 3-メチル脂肪酸を,それぞれ代謝可能な非水酸化脂肪酸および 2-メチル脂肪酸へと変換することにあると考えられる。 生体分子は一般に合成と分解のバランスによってホメオスタシスを維持しており,その破綻はさまざまな細胞機能障害や疾患を引き起こす。生化学研究室が明らかにした長鎖塩基およびフィトスフィンゴシンの分解経路は,分解という観点からスフィンゴ脂質ホメオスタシス維持の分子機構を示すものである。

研究業績

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